見世物小屋
超短文書き散らしブログ
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003. 隠し味(テニス / 樹と木更津兄弟)
「いやぁ俺さ、海鮮チャーハンに関しては樹っちゃんのがこの世で一番美味ぇと思うんだよな、マジで」
「あ、わかる」
「だろ~?」
「母さんも頼めば作ってくれるしそれはそれで美味しいけどさ、でも僕も樹っちゃんのの方が好きかも」
「もう何なの、2人揃って…照れるのね~」
カウンターに2つ並んだ全く同じ顔に、揃ってそんなセリフを発されて若干困惑しながらも、樹は手にした中華鍋を振り続ける。物心付く前から実家の食堂に出入りしていた樹にとって、料理はテニスより更に古くから”そこにあって当然のもの”であり、”料理が出来る”という事も全く特別な事では無い。少なくとも、自分ではそう思っている。
「だって俺らって、ぶっちゃけほとんど母さんの味と樹っちゃんちの味で育った様なもんだし」
「僕の場合は、そこにルドルフの寮母さんの味が入る訳だけど」
「そんな、亮と淳のお母さんの料理だって凄く美味しいのね、それに比べたら俺なんかまだ全然なのね」
「まぁうちのはうちので美味ぇんだけどさ、でも何か違うんだよな」
「樹家秘伝のナントカとかあるんじゃないの?樹っちゃんちはプロなんだし」
「え~…?そんなの全然聞いた事ないのね…俺だって別に親にちゃんと習った訳じゃないのね、ただ見よう見真似でやり始めただけで。俺は俺の料理でみんなが笑ってくれれば、それでいいのね」
ただ、自分の作った料理で家族や友達が喜んでくれるのが嬉しくて。笑顔を見ると嬉しくて。自分にとって当たり前の事を当たり前にしている…という感覚が強いせいか、やたらに褒められたりすると何だかくすぐったくなって来る。
「やっぱさ、料理は愛情ってホントなのかもね」
熱々の湯気を立てるチャーハンを皿に移していると、その手元を凝視していた淳が呟いた。
「まぁ確かに、樹っちゃんの料理には愛がたっぷりだからな」
「それを言うならお母さんが家族に出す料理も愛情たっぷりだし、
店で出す料理だって、料理人はお客さんの喜ぶ顔が見たくて作ってるのね」
「美味しい料理ってのは、作った人の愛情が感じられる料理なのかな」
「好きな女子が作ったもんなら、どう客観的に考えてもアレな料理でも食えるってのも愛情か?」
「そうだと思うのね。…作る方だけじゃなくて、食べる方の愛情もあると思うのね」
余りに率直な亮の問いに対して、苦笑しつつ言葉を選んで答えた樹は、山盛りのチャーハンが盛られた2つの皿をカウンターに置いた。
「さぁ召し上がれ、なのね」
